介護福祉士実技試験受験

 筆記試験に合格し、実技試験を受けることとなり、昨日東京に行った。

 同様に、実技試験に参加した同僚は、東京経済大学(国分寺)で受験。私はなぜか、ひとりポツンと目白大学新宿キャンパスでの受験となった。目白大学は、中井駅から徒歩10分。東中野で長く仕事をしていたので、そう離れた場所ではなかったが、この周辺は未知の場所だった。たぶん、中井駅も初めて利用した。下見もかねて、12時の受付の1時間以上前に大学の場所を確認、東京はぽつぽつと冷たい雨が降り始めていた。

 さて、実技試験だが、学科試験に対して、こちらはまったく自信がない。仕事をすればする程、自信がなくなってきた。今度の受験のために受けた社内の研修で、ちょっとあった自信も粉々に砕け、心の中は最悪の状態と言ってもいい。自信がなければ、それだけ練習を積まなければならないが、自立支援を重視する試験とは、裏腹の介護を常日頃やっているので、受験テクニック的な上達は難しい。技術のなさの言い訳かもしれないが……。さらに、私は上がりやすい性分で、すぐにパニックになってしまう。それがわかっているだけに、日常では、なるべくそれが出ないように心がけているのだが、一発勝負の試験はそうはいかない。

 さて、目白大学は、静かな住宅地の一画にひっそりと建っていた。周辺には住宅のみ。とぼとぼと15分程歩き、新目白通りまででて、マックで食事をしならが、小一時間、時間をつぶした。上がるな、上がるなと自分に言い聞かせながらだ。

 いよいよ時間、さらに強くなった雨の中を傘なしで歩き、心細い気持ちにムチを打ち会場に。きれいな建物が並ぶ、目白大学のホールに全員集合。ここで、試験まで3時間近く待つことになった。ホールの観客席に腰掛け、両隣はまったく知らない人、一言もしゃべらずに過ごすことになってしまった。とっても苦しい時間だった。

 受験番号を呼ばれる30分程前に、ユニホームに着替えた。季節外れだが、より軽装の夏服で臨んだ。靴も以前使っていたものを上履きとして用意して履き替えたのだが、これが、靴底がすり減っていてツルツルと滑る。なので、ここまで履いて来た靴で臨むことにした。結果的に、課題の内容から靴を脱ぐことになったので、靴はどうでも良かったのだが、ちょっと焦った。

 さて、いよいよ、受験番号を呼ばれ、試験会場へと移動。試験問題が手渡されて、かなり驚いた。

 この実技試験に臨むにあたり、社内の研修を数時間受けさせてもらった。これは多いに参考になり大変ありがたかった。自分では、もう一度、資格取得の時の教科書を読み返し、さらに過去26回の問題も調べた。

 そこから、ある程度の予想をしてみた。もしかしたら、床からの立ち上がりが出るのではないか。と。この予想は見事に的中した。なぜそう予想したかというと、最近は、椅子を使った問題が多く、ベッドが用意されることがない。そう、ベッドを用意するのは大変なことなので、物理的にも、予算的にも最近そうしないのではないかと思ったからだ。しかも最近まったくその問題がない。過去には出題されたことがある。だから、片麻痺の方を立ち上がらせるための介助方法の部分は良く読んだ。

 しかしだ、いつもは片麻痺なのに、要介護者の状態は下肢筋力が低下しているだけなのだ。ここはすごく重要で、自立支援が重視される試験なので、下肢筋力が低下しているだけの要介護者に、片麻痺の方と同じ介助をしたら、一発で落ちてしまいそうなのだ。

 問題を手渡されてから、必至にどうするか、頭の中をフル回転させて考えたがいい案が浮かばない。というかわからない。杖に加え椅子も用意されているが、どう使えばいいのかわからない。しかもこの問題、立ち上がらせて、窓際の椅子へ移動、着席させたらそれで終わりなのだ。いつもの課題とは、格段に問題の項目が少ない。ということは、どう立ち上がらせるかが、得点の多くの比重を占める。

 時間がないので、決断した。和室なので、靴を脱いで入る。右利きと書かれているので、右側が健側、左側が患側。でも下肢筋力が弱っているだけなので、椅子を使わず立ってもらう。ただし、窓に近い、左側に布団から降りてもらい、歩行介助をする。と、決断した。

 試験会場に入ると、ががーん。右側臥位になっているではないか。左側から立たせようと思ったのに。ここで、予定が狂った。しかも、寝ているのは、女子大生とおぼしき、華奢な女の子。女の子は好きだが、試験会場で、かわいらしい女の子をガシッと抱えるわけにはいかない。試験じゃなかったらうれしいのだが。

 急遽、右に降りてもらうことを決め、左麻痺の人のベッドからの立ち上がり作戦に変更した。

 しかし、この後のことは断片的にしか思い出せない。

 モデルの子が困ったようにうなずいたこと。あー、俺、変なこと言ってるんだ。布団の上に立ち上がらせてしまい、杖なしで1歩、歩いたこと。最後に座る時に立ち位置を何度も直したこと。

 そして、試験はあっという間に終わってしまった。俺の体内時計は1分ぐらいしか経過していない。終わった時は安堵感が合ったけれども、帰りのバスではいろいろ考えた。椅子があるなら、椅子を使う方法を行わなければならなかったんだろうかと。

 9割方落ちたと思うけど、なんとか受かってないかなぁとも思う。怖くて回答例を見ることもできない。あー、情けない、ふがいない。