鍛え抜かれた肉体が「美しき凶器」となる

1992年、アルベールビル(フランス)とバルセロナ(スペイン)でオリンピックが開催された年の作品です。
ちなみみ、アルベールビルでは、ノルディック複合男子が団体で金メダル、バルセロナでは、古賀や吉田が柔道で、14歳の岩崎恭子が200m平泳ぎで金メダルを獲得しています。

■ストーリー
4人の元トップアスリートが、自らの公表されてはならない過去を消し去ろうと、ひとりの医師の別荘に忍び込む。そこには、医師とひとりの鍛え抜かれた女性アスリートがトレーニングを行なっていた。侵入を目撃された4人は医師を殺害してしまう。その復讐に立ち上がったのが女性アスリート、タランチュラと呼ばれるほどに鍛え抜かれた肉体で、次々に復讐を成功させる。残るは2人。しかし、ここから意外な結末へと話が展開する。

■書評
タランチュラと呼ばれる女性の驚異的な運動能力が、この作品を浮世離れした特異なものにしてしまいそうですが、その驚異な部分が、作品に鬼気迫る切迫感を出しています。
追うタランチュラ、追われる4人、そして、事件を解決しようとする警察との三つ巴の追っかけっこが展開され、読む間は充分に小説の世界に没頭させてくれます。
さて、4人が消し去れなければならなかったのは、ドーピングを行なっていたという過去でした。今でこそ、一般的な言葉ですが、1992年当時、まだまだ、ドーピングは一般的ではなかったように記憶しています。それが大きな問題となったのは、1998年ソウルオリンピックのベン・ジョンソンの金メダル剥奪です。いち早く小説に取り入れていた感覚はさすがです。
そもそもドーピングは、古くから行われていたようです。カフェインでさえ禁止薬物になっていた時があるようなので、何が良くて何が悪いのか分からない時代はなおさらです。日本テニス協会のホームページが、ドーピングの歴史に触れていました。1965年アムステルダム運河水泳競技大会が、記録が残っている最初だと記しています。
ドーピングが何故いけないのかというと、例えば、日本体育協会は、
(1) 競技者の健康を害する
(2) フェアプレーの精神に反する
(3) 反社会的行為である
と、説明しています。
一瞬の勝利という、栄光と成功を掴むために、自分の体を犠牲にする。それは、自分の野望のために次々と殺人を犯していく、ミステリーの登場人物達と重なるものがありますね。

■私のおすすめ度:★★★☆☆