複数の登場人物の視点で展開させるミステリーは、これまでにも読んだことがあります。だから、読み始めてちょっと期待を裏切られた気がしました。しかも、事件はあっさりと解決してしまいます。しかし、ここからが東野ワールドでした。実に素晴らしい。
まず、創作物(小説)の中の創作物は所詮作り物であることは分かり切ったことなのに、その中ですっかりとだまされてしまいます。この二重構造に完敗。
さらに、同じ事件(結果)なのに動機が明らかになることによって世界が一変してしまいます。トリックの謎解きと同じような、いやそれ以上のおもしろみがそこに感じられます。
話が飛んでしまいますが、写真や映像だと、写っているものを真実だと思いこみやすいのですが、それらすべては作り物を見ているのにすぎません。そんな作り物で真実のイメージを作り上げてしまう。ここに悪意が入り込めばなおさらのこと。それは想像を膨らませてくれることもあるけれで、偽物であることをはっきり意識していなくてはならない。そんなことまで改めて思い出させてくれました。
私の満足度:★★★★
悪意 (講談社文庫) 660円