■ストーリー
シーズンを迎え、本格的な積雪を迎えた大きなスキー場に、ゲレンデに爆弾を仕掛けたという脅迫メールが届く。経営的な判断から、犯人の指定通り、警察には届けないことが上層部で決定した。秘密裏に処理しようとするスキー場側は、犯人に言いなりなのだが、犯人を見つけ出そうとする一人のスタッフが唯一犯人に抗おうとする。
■書評
バブル景気を迎えようとする頃、スキーはものすごく人気になった。「私をスキーに連れてって(1987年公開)」なんて映画もでき、スノーボードも登場し始めた。若者たちは、こぞってスキー場へ出かけて行った。深夜に東京を出発、まだ暗いスキー場の駐車場で、オープンを待つなんてこともざらだった。さらに、スキー場はナンパのメッカ。出会いを求めてさらに若者はスキー場へ。というのが80年代。
九州で学生時代を過ごした私は、スキーとは無縁の冬を過ごしていたが、ちょうどスキーブームの頃上京し、そのスキーブームを目の当たりにした。それが、今は見る影もない?(らしい)。5年前に信州に引っ越してきて、スキー場は目と鼻の先なのに、まったスキーをやっていない。スキーを積んでいる車もめったに見ない。この作品を読んだ時に、作品の内容よりもそんなことが思い出された。
年齢は私の3つ上、「夢はトリノをかけめぐる」なんて作品も書いているウインタースポーツ好きの作者の嘆きが聞かれる作品のように思われた。
ストーリー展開だが、犯人像が見えない、動機も想像できない、目的も今ひとつはっきりしない。解らないことだらけの展開なのに、最後にスーッと全体像が見えてくる。推理小説としてはよくできた展開だと思われる。しかし、東野作品としてみると、何か新しいものがない、物足りなさを感じてしまった。しかも、ラストはすべてが丸く収まり、何かを考えさせられる余韻もない。
もしかして、若からりし頃のスキーブームを思い起こさせるところ、またスキーでもやってみようかと思わせるところ、そこが本当の狙いだったのかもしれないと、思ってしまう。
白銀ジャック (実業之日本社文庫)
私の満足度 ★★★☆☆