信濃三十三カ所巡り8

 またしても南へ。松本市のはずれにある牛伏寺が次の目的地だ。松本市街を抜け国道19号をJR村井駅入口の交差点を駅と反対方向に折れ、山の方へ向かっていけばいい。のだが、市中心部から向かうと、この交差点の手前に、牛伏寺こっちの大きな標識があり、ついついこの交差点の手前で左折してしまった。ちょっとつまずいたが、iphoneのおかげで今回も無事辿り着いた。

第27番牛伏寺(ごふくじ)

 牛伏寺は、予想していたよりはるかに立派なお寺だった。駐車場の案内板によればその由緒は下記のようなもの。

 牛伏寺は、鉢伏山への自然信仰に始まり、仏教と修験道の信仰が習合して形成されたといわれている真言宗の名刹です。
「牛伏寺由来記」によれば、当の玄宗皇帝が善光寺へ大般若経六百巻を奉納の途上、この寺の麓で経巻を積んだ二頭の牛が倒れたため、経巻をこの寺に奉納したとの故事により、寺号を牛伏寺と改めたとされています。
 開創当初は、鉢伏山中腹の蓬堂にあったが、建保2年(1214年)堂平に移り、天文三年(1534年)現在地に移ったとされています。
 この寺には、平安時代から室町時代にかけて製作された多くの仏像が所蔵されており、厄除観音として信仰されている本尊十一面観世音菩薩を始め、国指定重要文化財4件8躯、県宝3件、松本市指定文化財10件を含め、地方文化財の宝庫であり、境内一帯は、長野県の自然環境保全地域に指定されています。

 駐車場にバイクを置き100mほど歩くと石段がある。山門を抜けると本坊、そして立派な茅葺屋根の如意輪堂が見えてくる。肝心の観音堂はどこかというと、さらにその一段上にあった。二頭の牛の石像が狛犬のように並ぶ石段を登ると立派な仁王門があり、そこに観音堂があった。間口五間、奥行四間の五間堂。県内で3番目に古い五間堂なのだそうだ。

 そして、な、な、なんと、立派なしめ縄が飾られている、寺なのに。しかも、そのしめ縄、我がふるさとの島根県で作られている。島根しかも生まれたところの隣町で作っていいる。何なんだ、このしめ縄は? と、帰って来てから調べているうちに判明。信州で出雲に触れることができて嬉しかった。でもなぜしめ縄があるのかはなぞのままだ。

 牛伏寺 http://www.gofukuji.or.jp/
 飯南町大しめなわ創作館 http://ohshimenawa.com/
▲境内から随分と下ったところに参道の入口がある。しかし、今は使われていない

▲境内から随分と下ったところに参道の入口がある。しかし、今は使われていない

▲山門に続く石段。その入口には寺ではあまり見たことのない門があった

▲山門に続く石段。その入口には寺ではあまり見たことのない門があった

▲石段を上ると山門(表門)がある

▲石段を上ると山門(表門)がある

▲山門をくぐると、茅葺き屋根の立派な建物が目に入る。これが如意輪堂

▲山門をくぐると、茅葺き屋根の立派な建物が目に入る。これが如意輪堂

▲さらに一段高い位置に仁王門がある。石段手前には牛伏寺ならではの牛の像がある

▲さらに一段高い位置に仁王門がある。石段手前には牛伏寺ならではの牛の像がある

▲仁王門を抜けるとしめ縄が飾られた観音堂がある

▲仁王門を抜けるとしめ縄が飾られた観音堂がある

 駐車場に「牛伏川渓流と防災遺産砂防施設 見学コース」の大きな案内板があり、すぐ近くだったので寄り道した。防災遺産と言われているのは、フランス式階段工で、大正7(1918)年に完成、コンクリートによらない石積みの構造物だ。自然に溶け込み、穏やかな風景を作っていた。
▲フランス式階段工

▲フランス式階段工

 帰りに参道入口にあるそば処坂口茶屋で昼食にした。営業時間は11時30分から14時までと書かれていた。場所も町外れで、営業時間も短い。よっぽどの名店なのかもしれないと恐る恐る入ったが、お客は僕の他にひと組だけだった。平日とは言え、時間は12時過ぎだったのだが。注文した「おろしかけそば」は、唐沢そばのように陶器製の皿に盛られていた。美味しかった。
▲今は通行できない参道のすぐ横にある坂口茶屋

▲今は通行できない参道のすぐ横にある坂口茶屋

▲おろしかけそば

▲おろしかけそば

 次に目指すのは上田の龍福寺。諏訪湖で折り返して北上した。

第28番龍福寺(りゅうふくじ)

 龍福寺は別名鳥羽堂観音。参道入口に案内板はあったが、境内は雑草も生え、ずいぶんと寂れた感じがあった。牛伏寺から来ると、その違いにさみしさを感じずにはいられない。信濃三十三観音札所めぐりのホームページには、「毎年12月には奉賛会が主催する子ども餅つき大会で大いににぎわう…」とあったが、少子高齢化が進む昨今、今もそうなのか心配なところだ。
▲案内表示はあるが、参道とは思えない入口

▲案内表示はあるが、参道とは思えない入口

▲石垣に囲まれた境内。赤いのぼりが何本も並んでいた

▲石垣に囲まれた境内。赤いのぼりが何本も並んでいた

▲こぢんまりとした観音堂

▲こぢんまりとした観音堂

 本日最後は、小諸市の釈尊寺だ。「牛に引かれて善光寺参り」伝説ゆかりのお寺。駐車場からしばらく山道の上るのだが、案内板には徒歩で約20分と書かれていた。駐車場に着いたのが4時半ごろ。なにやら空がどんよりとして来て、山歩きには不安を感じたが、ここまで来たのだから急いで上ることにした。急な山道を上っていくが、最初は木々に覆われて薄暗いのだけれど、だんだんと空が開けてくる。山門が見えると迫力の高さの懸崖造りの観音堂が見えて来た。「おー」と思わず心の中で叫び声をあげた。そこからさらに数分で本堂に到着。すると本堂の横にクルマが停まっていた。ここでも「えー」と声をあげたくなった。道が通じているらしい。多分、一般車は入れないんだろう。

第29番釈尊寺(しゃくそんじ)

 別名が布引観音。前述の通り布引伝説で有名だ。駐車場の案内板に下記のように書かれていた。

 むかし、信心のうすい老婆が住んでおりました。この老婆が千曲川で布を晒しておりますと、どこからともなく一頭の牛が現れ、その布を角にかけて走り出しました。
 老婆は、驚いて、野を越え、山超え、牛の後を追いかけましたが、ふと気がついてみますと善光寺の境内まで来ておりました。老婆は、やっとのことで牛に追いついたのかと思ったのもつかの間、牛は金堂のあたりで、突然姿を消してしまったのではありませんか。
 驚きと悲しみに疲れ果てた老婆は、あっけにとられてその場にたたずんでしまいました。
 日も暮れる頃、どこからともなく一条の光明がさし、その霊光の尊さに思わずひざまずいて、菩提心を起こし一夜を金堂にこもって罪悪を詫び、家に帰ってまいりました。
 ある日の事、ふと布引山を仰ぎ見ますと、岩角にあの布がふきつけられているではありませんか。
 老婆は何とかして取り戻したいと思いましたが断崖絶壁の事で取るすべもありません。
 一心不乱に念じているうち、布と共に石と化してしまったと云うことです。
 この布引山の断崖には今も白く布の形をした岩肌が眺められます。
 布引観世音菩薩が、牛に化して信心うすい老婆を、善光寺阿弥陀如来の許に導いて教化をしたのだそうです。
 この話は、信濃四大伝説の一つとして、今に語り伝えれております。

 この伝説もさることながら、この布引観音がすごいのは、懸崖造りの観音堂だ。切り立った断崖に作られており、そんじょそこらの懸崖造りとはちょっと迫力が違う。その迫力に圧倒される。

 本堂から観音堂へと崖づたいに移動するのだが、途中には岩をくり抜いたトンネルもあり、その作りを見るだけでも十分に訪れる価値のあるお寺だ。

▲千曲川沿いにある駐車場。そこからの参道入口

▲岩山を上っていく参道。歩きやすいように整備されている

▲ハアハアと10分?くらい歩くと立派な仁王門が見えてくる。今はこの門をくぐらず、その前を通って境内に。後ろに観音堂が見える

▲ハアハアと10分?くらい歩くと立派な仁王門が見えてくる。今はこの門をくぐらず、その前を通って境内に。後ろに観音堂が見える

▲境内の入口には牛伏寺と同じような門が建っていた

▲境内の入口には牛伏寺と同じような門が建っていた

▲本堂の方から観た観音堂。崖に張り付くように建っているが、それを支える柱の長さがすごい

▲本堂の方から観た観音堂。崖に張り付くように建っているが、それを支える柱の長さがすごい

▲境内に到着。庫裡? と本堂が狭い敷地に横長に建っている。この前をさらに進むと観音堂

▲境内に到着。庫裡? と本堂が狭い敷地に横長に建っている。この前をさらに進むと観音堂

▲すぐに岩山をくりぬいた素掘りのトンネルがある

▲すぐに岩山をくりぬいた素掘りのトンネルがある

▲観音堂に到着。岩山に食い込むように建てられている

▲観音堂に到着。岩山に食い込むように建てられている

▲観音堂から本堂を見る

▲観音堂から本堂を見る

 さて、参拝を終えてまだ日が暮れるには少しばかり時間があったので、温泉につかって帰ることにしたのだが、参拝を終えて気が抜けたのか、一時停止を見逃して、たまたま居合わせたパトカーに、捕まってしまった。布引観音の駐車場を後にする時、一台の県外ナンバーのクルマが、なにやら道に迷っている様子だったが、その人にやさしく声をかけておけば、そのパトカーに遭遇しなかったのかもしれない。いずれにしても、心に余裕がなかったからと反省した。おまわりさんに温泉の場所を聞き、現場を後にした。

 この後寄ったのは「あぐりの湯こもろ」。佐久平越しに浅間山を望む絶好の立地。景色のいい温泉だった。
▲立派な日帰り温泉施設「あぐりの湯こもろ」

▲立派な日帰り温泉施設「あぐりの湯こもろ」

▲ロービーから観た佐久平の眺め。浴室からもこの眺望がひらけている

▲ロービーから観た佐久平の眺め。浴室からもこの眺望がひらけている