午前中は善光寺、午後は温泉へ行こうと高山村方面へとバイクで向かった。が、いつも気になっているのが北信濃フルーツラインにある豪商の館田中本家博物館の看板だ。須坂は製糸業で明治から昭和初期にかけて栄え町で、当時の名残として立派な蔵がいくつも残り「蔵の町」として知られている。小布施、松代と並んで長野市周辺の観光スポットになっている。小布施、松代に対してちょっと地味なイメージだが、市街地の蔵の町並みは見応えがある。中でも江戸時代からの商人の館を使用した須坂クラシック美術館の建物はとても素晴らしいものだっただけに、江戸時代から財を築き、須坂藩を上回る財力を持っていたと言われる田中本家はぜひとも見学したいと思っていた。
田中本家は、江戸中期に初代新八が、穀物、菜種油、綿や酒造業を営んで財を築き上げた豪商だ。田中本家の建物の一部を博物館として公開されており、その敷地を見て回ることができるのだ。四方を蔵で囲まれた作りなので外観は地味だが、中は趣のある庭園が造られており、中でもカモ?が遊ぶ池泉廻遊式庭園は、思わず座り込んでまったりとしてしまうほどいい感じだ。土蔵には、代々受け継がれてきた書画、骨頭類、衣裳などの品々が残されており、「近世の正倉院」とも言われるほどに文化財としての価値も高い。
田中本家を見学して、すっきりと胸のつかえがおりたのだが、この後衝撃的な出来事が。
田中本家を出発してちょうどフルーツラインに出たばかりのところのトンネルで、ショルダーバッグに衝撃が走った。「あれ、バッグがリアタイヤに巻き込まれたか?」と思ってバイクを停めた。トンネルを戻ってみるが何もない。冷静になって肩をみるとバッグはちゃんとある。どうしたのかなぁと思い、バイクにもどると、がががぁーん。リアスプロケットに田中本家を見学する前に脱いでショルダーバックにかけておいた綿のパーカーが巻きついていた。
ここでパニック。とりあえずトンネルを抜けて、空き地にバイクを停めたものの、パーカーは手で引っ張った程度ではまったく外せない。工具は何もない。バイクを倒してリアタイヤを回してみたが何ともならない。パニックした頭で考えた結果。コンビニがあったことを思い出した。ハサミかカッターでちょっとずつ切り刻めば外せるかも。
バイクにまたがり万が一ロックしたら困るので、低速でコンビニまで道を引き返した。ハサミを買って、コンビニの駐車場では恥ずかしいので、人目につかない空き地を探して、ちょっとずつちょっとずつ切り刻んで、30分ぐらいかかっただろうか、全部を取り去ることができた。このときは、本当にホッとした。
ずいぶん昔、林道でリアシートのバッグが外れ、後輪に巻き込んでロックしてしまったことを思い出した。ロックしなくて本当に良かったと思いながら、温泉に行く気を失い、帰路についた。あー、忘れっぽい自分が情けない。「二度とバッグに服をかけないぞ」と心に誓った。