どんどんと枠をはみ出していく東野圭吾の傑作「時生/トキオ」

2002年、まさにミステリーな一作。2005年文庫本化の際に、原題トキオを時生に改題。

■ストーリー
難病におかされ、すでに臨終の床にある息子を前に、父親、宮本拓実が妻の麗子に、結婚前にあった不思議な体験を語り出す。それは、今まさに生き絶えんとする息子、時生に、結婚する前に会ったことがあるという信じがたい回想だった。
宮本夫婦は、子供ができるとかなり高い確率で、その子供が難病にかかることがわかっていたにもかかわらず、妊娠を期に、出産を決意する。出産後は、楽しい家族生活を送るものの、やはり運命には逆らえず、息子は不治の病を発症してしまう。はたして息子は生まれてきて幸せだったのか。

■書評
東野作品には「手紙」「片思い」など、現実にある社会問題をミステリーという手法の中で、問題提起したものがあります。これもその中の一作ではないでしょうか。
私は、そんな作品がとても好きです。読書は娯楽です、特にミステリーとかサスペンスはその要素が強いでしょう。読んでいる時、現実の世界から作品の世界へとトリップさせてもらうことで、自分自身をリフレッシュすることができるのですが、そこから一歩飛び出して何かを考えさせてくれる、純文学的要素を持った作品に、さらなる存在感を感じるからです。
生まれてきて良かったかどうか、これは極めて主観的なものであり、もし同じような人生を送ったとしても、その人それぞれに感じてくるものが違うのではないでしょうか。
しかし、どんな人生を歩もうと、その中には人間本来の普遍的な価値があるのではないか。大げさですが、生まれてきたすべての人たちに対する応援歌であるように感じました。
ミステリー作品のワクワク感も十分に感じれれる、おすすめの一冊です。

私のおすすめ度:★★★★★