■ストーリー
自衛隊に納入予定のヘリコプターが、何者かに乗っ取られる。自動操縦が可能な最新設備を備えた機種で、リモートコントロールによって乗っ取られてしまう。最新鋭のヘリコプターは、原子力発電所の真上にと移動する。犯人の要求は、国内の全原発の停止、要求が受け入れられなければヘリコプターを原発に墜落させるというものだった。全国民を巻き込んだ大騒動に。果たしての真の目的は何なのか? 総力を挙げての犯人探しが展開される。
■書評
これを読んだ時に、最近書かれた本だと思った。しかし、発行年は1995年だった。
2011年3月、東日本大地震により、福島第一原発がメルトダウン。その後、安全基準見直しのために、国内の原発は次々に停止させられ、ついに原発0の時期が来た。原発停止に際しても、また、再稼働させるかどうかの時期においても、国内では大きな議論が巻き起こった。しかし、現実は安全基準さえクリアすれば、再稼働させる方向に動いている。つまり、原発は必要なものと再確認されたのだが……。
この本では、原発が大きなテーマとして取り上げられている。原発が作られようとすると必ずや反対運動が起きる。しかし、地元自治体は建設を歓迎し、やがて建設は現実のものとなるのがいつものストーリーだ。
この小説は、犯人逮捕までのドキドキ、ワクワク感を与えてくれるのはもちろんのこと、原発について大いに考えさせてくれる。推進派や反対派の立場を明らかにしている人にもだが、それよりも普段あまり興味を持っていない人に対し考えて欲しいというのが作者の狙いなのではないだろうか。
東日本大震災によって嫌が応にも考えざるをえなくなった問題を、その15年も前に、ミステリー小説によって、多くの人々に考えさせようとした筆者の試みに拍手を贈りたい。しかも、どんどんと引き込まれていく面白い物語によってである。
天空の蜂 (講談社文庫)
私の満足度:★★★★★