■ストーリー
ある夜、バレエ団のビルに男が忍び込み、居合わせた団員により殺されてしまう。事件は単なる正当防衛による事故と思われたが、その正当防衛を立証しようとる警察によって、事件は意外な方向へと進んでいく。刑事の一人は、東野圭吾シリーズの中でも初期から度々登場する加賀恭一郎。彼の恋の物語も絡み合って、ストーリーは展開する。
■書評
明らかに正当防衛と思われる事件が、殺人事件へと進展していく。その伏線は、バレリーナという職業にあった。
この本を読むちょっと前に、ノルウェーでプリンシパルとして活躍する西野麻衣子さんが登場するテレビ番組を見ていたので、物語が身近に感じられた。この物語のキーワードとも言えるバレリーナへの思いを理解するために、バレエについて知識があるとないとでは、面白さがかなり違うのではないかと思う。全然知らなければ、ピンとこないだろうし、ちょっと知っていれば、こんなこともありえるだろうと思えるし、実際にやっていれば、……(どうなんだろう)。
バレエという舞台背景とともに、ストーリー部分でも触れた通り、加賀の恋物語も織り込まれている。単なる正当防衛と思える事件から始まる地味な展開だけに、このからみはこの小説を読み進めるために、けっこう大切だと思われる。デビュー2作目の「卒業」を読んでいればさらに面白いだろう。
加賀という人物の描写も興味深い。「卒業」で描かれた学生時代の加賀、そして刑事になって円熟味を増す「新参者」で描かれた加賀、この小説の加賀は、人間としても刑事としてもまだまだ荒削りな感じがあるように感じられる。推理小説としての出来とともに、加賀恭一郎という人物の描写にも心惹かれる作品だ。
眠りの森 (講談社文庫)
私の満足度:★★★★