そういう意味だったのか「回廊亭殺人事件」

一代で財を成した一ヶ原高顕氏の遺産を巡って起きる、いかにもなストーリーの東野圭吾初期の推理小説。

舞台が回廊亭とよばれる高顯がオーナーの旅館になるのだが、ストーリーの展開が、ほぼこの場所に限られることが、典型的な推理小説感を醸し出している要因でもある。

 ストーリーは、主人公である桐生枝梨子は、一ヶ原高顕の秘書を務め、優秀であるがゆえに高顯に求婚される程の信頼を得ている。高顯は、自分の命がそう長くないことを感じ、かつて別れた恋人に産ませた自分の子を探し出そうとする。この2つの要因がからみ、実子のいない高顯の遺産相続権を持つ親族の間にゴタゴタが生じる。

 東野圭吾作品は、時代とともの推理小説からミステリーと呼ばれるものへ、そしてある種文学作品的香りのするものへと変化を遂げて行っていると思う。この作品は、初期、まだ推理小説の域を出ない作品だが、「あー」と思わせる最後のどんでん返しが用意されている。しかし、それはただ犯人を分かりにくくするためだけのものではなく、心に残る推理小説に潜んでいる、人間の情をうまく織り込んでいるのだ。

 桐生枝梨子の恋人への思いがどれほどのものだったのか。この小説の面白さはそこにある。彼女のあの言葉、そういう意味だったのか、というのが、私の読後に残った印象だ。

私のおすすめ度:★★★☆☆

回廊亭殺人事件 (光文社文庫)